ガチ恋ファンタジー
長澤まさみとサンボマスター「全ての夜と全ての朝にタンバリンを鳴らすのだ」
「先輩、飲み行きましょうよ!」
何回先輩を飲みに誘っただろうか。こればっかしはどうにもならないとわかっておきながらも、どうせゲームクリアなんてないのは知っていながらも無性にこうも自分から誘ってしまうのはなぜなのだろうか。振り返ってみるともう何10回かは飲みに行ってる50/50で行くならまだしも7割は僕から誘っているはずだ。毎回毎回自分からラインを送っては穴があったら入りたいレベルで後悔をして当日を迎えている。記憶の中で残ってる先輩に誘われたのは大学卒業祝いと就職祝い、あとはなんだっけかなと考えていると。
「いいよ〜いこ〜!!」と返事が来た
いつもと同じである。何の面白みもない返事だ。この世で一番空虚な返事であると思う神に誓ってもいいはずだ。だけど先輩にドタキャンされたことはない。そこが一番心地よい距離感だとわかっているからだ。
「どこにしますか?」
「そうだね〜恵比寿とか中目あたり?」
「そうですね。じゃ19時くらいに中目黒で」
以前先輩と飲みに行ったのも中目黒だった、初めて飲みに行ったのも中目黒だったはずだ。きっかけは大学1年生の時のインカレの新歓、そこで4年生になる先輩はみんなの前で説明していた。高校を卒業したばかりのガキのような1年生にちとって4年生というのは数字よりもずっと大人に見えたのを今でも鮮明に覚えている。そのインカレの良さは分からずすぐに辞めてしまったが。そんな様に大学時代は友達とばかり飲みに行っていた記憶しかないが、そんな自分も4年になったある日、インスタのDMが光った。
「君ってさ〇〇君の後輩だよね」
「そうです!確か新歓に1年の時行ったんですよ!」
「あ〜懐かしい!、じゃあ今もう就活かな?」
先輩を見たのは新歓が初めてだったけど、飲み行ったのは自分が4年になってからだった。先輩の友人が高校時代のサッカー部の先輩でそこからなぜか会話が弾み”就活の相談”という形で飲みに行くことになった。もちろん向こうは自分のことを知っているだろうがほぼ初対面と言っても過言ではなかった。しかも忘れた頃にひょっこり自分のゲームの中に現れたキャラクターみたいに僕のサクセスストーリーに分岐が生じた。その時は確か彼女とも別れたばっかりだったし特にそういった異性との交流はなかったから意外にも緊張している自分がいたけど、それがきっかけで先輩との交流が始まった。
「お疲れ〜今日は残業?」
「ん〜まあそうですね、ここ最近は定時は過ぎるくらいです」
「そっか〜広告系だったよね、激務そうじゃん」
「いえいえ」
お決まりの常套句で会話を始める自分も少しは先輩からしたら大人になっているのだろうか、学生の時に見えた歳の差は案外社会人になってみるとそこまで隔たりとは感じなくなっていた。最後にあったのは今年の4月で右も左も分からない生まれたての新社会人の自分、だけどもう半年は経っているし自分でだって仕事を任されることも増えた。何だか社会人が慣れてきたからか自分の心にも年上の女性に対応する力でもついたのだろうか。
「君ってさ、あまり私と男女の関係の話とかしないよね」
急な豪速球に体をそらすことしかできなかった。だけどそれは当たっている。
「確かに、そうですね。なんか別にそういう話って好きでもないのでわざわざする必要ないかと」
「うわ〜塩だね〜まあそうなんだけどさ」
「逆にあれですけど、彼氏とかいるんですか?」
「教えな〜い、君は?」
「いたら来ないですよ」
「意外と誠実じゃん」
彼女の人生というゲームの中では僕自体はただの村人Aに過ぎないかもしれない。だけど村人Aにだってそれなりにプライドはあるだろう。てか、ゲームしている時に何回も喋りかけてしまう村人Aだっている。だから僕は彼女にとってそんな存在でもいいと思っている。というか大人の女性の様な余裕がある人と付き合いたいと心底思っている。だからこそ長澤さんと会う日はいつも緊張してしまうし扱いが難しい。
攻略できないゲームみたいに。
夢に描いた景色など君の前じゃ捨てちまうのさ、鳴らせ鳴らせ愛しき日々をタンバリンタンバリン Oh yeah